心機一転


現実では不遇の扱いをされ、やる気をなくし、失意の底に深く沈んだ生活を送っていたとしても、トラックに轢かれて異世界に行けさえすれば、自分の能力をいかんなく発揮できる機会に恵まれ、トントン拍子の成り上がり、綺麗な女性に囲まれてハッピーライフ。

 

深夜にアニメを見るだけが私の生きる道!な諸兄ならば、これが誰も彼が夢見るシチュエーションであることに異論ないだろう。当然、私も現世でとうとう食うに困ったならば、いつかは無類のオーラ力を引っ提げて、バイストンウェルに単身乗り込むつもりでいた。いました。

 

だけど最近気がつきました。学習したんです。異世界無双できる主人公って割りと頭よくない?

大概、異世界転生者や転移者たちが活躍できてるのって、文化レベルが現在よりも低い中世ヨーロッパのような世界観の舞台に飛んで、義務教育や独学で得た現代知識をフル活用することで有り難がられて重宝されてるんだけど、俺にそんな知識はなかった……。

 

ショットウェポンのようなロボット工学の知識も当然ないし、本好きで印刷技術をそらで覚えてるようなマインのような知識もなく、毒物を扱って魔獣駆除もできない、異世界食材でちゃんこを作れるような料理スキルもない、そもそも気力がない。ガッツが足りなくてドリブルしようとしてもモブキャラにタックルで吹っ飛ばされる。運動神経もないから、マシンをあてがわれてもトカマクみたいに開始数分で森の中に墜落する未来が異世界に飛ぶ前からありありと分かってしまう。


神様に出会ってチート能力を授けられるのなんて、それこそ神がかった運の持ち主だけに限られるだろう。

 

そんな当たり前の非情な事実に今更ながら辿り着いてしまったのだ。将来的には異世界へ行くことが確定事項ではあっても、このままでは彼の地で何も成し遂げられない。

 

ではどうすればいいのか。簡単なことだ。ただ努力すればいい。日々、無気力に生きるだけでは駄目だということに、異世界と真剣に向き合った結果、ようやく理解した。

 

知識を身に付けるべく文章を読む。他者との交流で困ることがないよう、人との関わりを持つ。体を動かして運動能力を確保すること。異世界に希望を持つことは、即ち現実を一生懸命生きるのと同じだと巡り回って気付かされる。こういった当たり前がこなせずに、何が異世界での成功だ。甘ったれている。

 

目標が明確になったなら即行動だ。
知識を得るため、5chや二次裏のログを時間の許す限り読みあさる。
人との交流を勉強すべく、ネガコメ100本ノック。
布団の中でも意識して寝返りを打って運動量も確保しておきたい。

 

出来もしない大言壮語ばかりを吐かずに、地に足のついた努力を継続することこそが夢の実現への第一歩になる。何事も有言実行あるのみだ。みんなも、いい加減夢から覚めて現実を見据えるときだと思う。